コッツウォルド(ストウ・オン・ザ・ウォルド)旅行

(2005年12月2−4日)

ついこのあいだ正月が来たばかりだと思っていると、なにやら、あっという間にもう年の瀬、12月となってしまいました。有給休暇が大幅に消化不足だから、というだけの理由でもないのですが、ただいま、一週間の休暇をとって休養中です。週末には、コッツウォルドのストウ・オン・ザ・ウォルドへ2泊3日の小旅行に行って来ました。コッツウォルドは、イングランドの中央南部、北はシェークスピアの生誕地として有名なストラットフォード・アポン・エイボンから、ローマ時代の遺跡の残る街、バースあたりまでの丘陵地帯をいいます。なだらかな丘の合間に、石造りの箱庭のような村々の点在する美しい地方です。 なにをしにゆくわけでもなく、ただのんびり、だらだらするために出かけたわけで、特にレポートすることもないだろうと思っていたら、思いがけず音楽関係の収穫がありましたので、急遽ミニレポートを書いてみました。

ストウ・オン・ザ・ウォルドのホテル旅行といっても、コッツウォルド地方はオックスフォードからは、目と鼻の先。ストウ・オン・ザ・ウォルドへは、車で一時間もかかりません。宿泊先のユニコーン・ホテルへ到着してみると、運悪くバケツをひっくり返したような大雨で、荷物を運び入れている間にずぶぬれになりました。写真は、ホテルに隣接したレストラン。17世紀の建物を改造した、典型的なコッツウォルド・スタイルのホテルです。何しろ天気が悪くて、たいした写真も撮れませんでしたが、下に何枚か並べておきます。

ストウの街の小路郵便局の看板小鳥を大切に・・野鳥保護の募金箱ノース・リーチのパブ 

ワールド・オブ・メカニカル・ミュージック今回の旅行の収穫は、ストウから車で20分ほどの小さな村、ノース・リーチで見つけた、ワールド・オブ・メカニカル・ミュージックというショップ・博物館でした。ここでは、ガイドさんが一時間くらいをかけて、様々な歴史的オルゴール、蓄音機、自動ピアノなどの実演を、解説を交えて聞かせてくれます。エジソンの蓄音機このレポートを読んでくださっているような音楽好きの方なら、もしコッツウォルドを訪ねる機会があれば、ぜひ一度訪れてみて損はないと思います。印象に残ったディスプレイはいくつもありますが、あえていくつか取り上げるなら、まず、エジソンによる筒状の録音器のオリジナルでしょう。これは、実に明瞭でよい音がしました。セルロイド製のシリンダーは対磨耗性にも優れ、構造的にも、その直後に現れた円盤状のレコードよりは、はるか洗練されたメカニズムを持っていたようです。ただ、筒状の録音媒体を安価に量産できなかったのが致命的な欠点でした。

巨大な紙製のホーンを持った蓄音機その後、我々には懐かしい、円盤状のレコードも大きな技術的進歩を遂げました。この写真に見られる巨大な厚紙で出来たホーンを持った蓄音機はイギリス製です。針には三角柱状の竹が使われています。この竹のチップの先を専用のカッターで切り落として、毎回鋭いエッジを立ててからレコードを再生します。竹の針を用いることで、レコードはほとんど磨耗しないのだそうです。そして、なんと言っても驚いたのがその音質です。まったくと言ってよいほど、ジャラジャラ、ザーザーというバックグラウンドノイズがありません。ほとんど無音の状態から突然音が出てくるので、まるで現代のCDの再生を聞いているような錯覚に陥ります。そしてその音の暖かいこと。歌手が誰だったか失念しましたが、ジャズボーカルを聞きました。まるでホーンの裏から、生身の人間が歌いかけてくるようです。限りなく人の声に近い再生音でした。ギターなどの楽器の音を聞いたら、またどう思うかはわかりませんが、チェロなど中低音の豊かな楽器の音との相性は極めてよさそうに思えました。

ラベルを聴いた自動ピアノ次に興味深かったのは、自動ピアノの演奏です。二台聞きましたが、どちらも1920年ころのピアニストの生演奏をロールペーパーを使ってパンチカード式に記録したものの再生です。最近は、ヤマハのクラヴィノーバなどにも自分の演奏を記録できるものがありますが、あれと同じ理屈です。ただ、こちらは電子機器を一切使わずにメカニカルに記録・再生するわけですね。それでも、ダイナミックレンジは、ピアニッシモからフォルテッシモまでが16段階もあり、時間分解能のことは聞きませんでしたが、きわめてリアルな自動演奏を聞かせました。最初に聞いたのが、ポーランドの作曲家・ピアニスト、パデレフスキーの弾くベートーベンの熱情。もう一つは、ロバート・シュミット(だったかな・・)という人の弾いたラベルの亡き王女のためのパバーヌでした。自動オルガンとスタインウェイの自動ピアノ(奥)メカとしての自動ピアノが聞けたのも良い体験でしたが、それと同時に1920年ころ、ロマン派の終焉の名残とも言える時期の演奏スタイルを、化石でも掘り起こすように聞けたのが実に有意義でした。1920年ころといっても、パデレフスキ−は1860年代の生まれですから、19世紀後半のスタイルと言ってよいと思います。予想通り、彼らにとってほぼ同時代とも言えるラベルの方は、現代のピアニストの演奏と比べても、ほとんど違和感なく聴けましたが、ベートーベンには、明らかに歴史的なスタイルのマッチしない演奏を聞いているというのだということを強く感じました。実に恣意的というか、平たく言えば勝手気ままな演奏です。当時は、ああいう風に直接的に自分の個性を表に出すことが許されていたのですね。いま時あんな演奏をしたら、評論家にボロクソに書かれるでしょう。それから、もう一つ驚いたのは、当時、当代一流といわれた二人のピアニストの技術的な不完全さです。はっきり言って速いパッセージでは、きちんと指が回っていません。今ならジュニアのコンクールにだって、もっとメカニカルに完璧な演奏が要求されるのではないでしょうか。よく言われることですが、これは録音技術の進歩によって同じ演奏を繰り返し、繰り返し聞くという状況が日常化したことと無関係ではないでしょう。演奏家の皆さんにとっては、なんともやりにくい時代になったものですね。

博物館で買ったオルゴール博物館のショップで帰りがけに小さな手回しのオルゴールを買いました。正確に言うと、オルゴールのメカニズムの部分です。こんな音がします。

 

コッツウォルド(ストウ・オン・ザ・ウォルド)旅行 (了)