メカニック研究

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 4.右手の技術1 (伸展筋を使った運動) [11, 12]

 基本的な考え方

 右手のトレーニングに関する文献を調べて思うことは、そのバリエーションが左手に比べてけた違いに多いということです。例えば、古典的な例ではジュリアーニのアルペジオパターンは120あります。ここから得られるメッセージは、右手の練習では左手に比べてよりいっそうワンパターンに陥ることを避けねばならないということでしょう。これが右手に要求される運動が左手に比べてはるかに複雑だ、という事実を反映しているものとおもわれます。単一パターンの練習ばかりを続けると、その運動に必要な少数の筋肉だけが鍛えられた結果、知らず知らずのうちに各指の筋力やコントロールのバランスがくずれてゆきがちなものです。ここで 「筋肉が鍛えられる」 といった場合、私の意味することは「筋力の向上」および「その特定の筋の運動を制御する神経系の発達」の両方であることに注意してください。トレモロの練習でも、ほとんどの教本が通常の pami という通常の組み合わせだけでなく、pima や pmai など複数のパターンを練習して、各指のバランスをとることを奨めています。もちろん、こんなことはこのページを読んでくださっている方には、耳新しいことでも何でもないとは思いますが、多くのエキスパートはこの考えをさらに拡張して、通常の練習では軽視されている様々な運動を右手のトレーニングに取り入れることで、右手指の総合的な運動性を向上させることを提案しています。

それでは通常軽視されている運動とはどんなものでしょうか。私は第一に伸展筋を使った運動群を挙げたいと思います。 (手を動かす筋肉については8の 「ギタリストのための解剖学」 を参照ください) 皆さんは 「フラメンコギタリストのスケールが速いのは、ラスゲアードをすることによって指を伸ばす側の筋肉が鍛えられて、指の戻りがよくなるからだ」 という議論を耳にしたことがあると思います。事の真偽は別として、ラスゲアードをギター学習の早い時期から積極的に導入するべきだとするギタリスト・教育家は多いのです。同様な考え方に基づいた練習法に「はさみうち」というものがあります。「11」 実際に効果があったという体験をお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。「12」 私は「はさみうち」の効果は、伸展筋のコントロールの向上が圧倒的に主、筋力アップが副だと考えています。爪の甲側で(指を外側に伸ばす動きで)いつもと逆方向にmでスケールなどをやってみると、筋力不足というよりはその不器用さに驚きます。maならなおさらです。この動きは普段とは逆方向ですが、mの交互運動であることに変わりはありません。だから、この不器用さは通常のmの弾弦時にも屈曲筋と伸展筋の動きのタイミングをシンクロ出来ないという、不都合を創り出しているのに違いありません。どういうことかというと、屈曲筋と伸展筋が同時に収縮あるいは弛緩したら指は動きません。屈曲筋がオンになれば同時に伸展筋がオフになる必要があります。そして、この交互オン・オフの位相がiとmで完全に逆になっていないと効率的な交互弾弦にならないということです。だから、スムースな交互弾弦のためには普段意識して使わない伸展筋の制御能力も屈曲筋並みに高めてやる必要があるでしょう。スケールを速く弾こうとしても、指がバタバタと跳ね上がってちっともスピードが上がらないという経験は誰にでもあると思いますが、これなどは速く弾きたいと思うがゆえに、伸展筋が無制御に暴走した結果のように私には思えます。「はさみうち」というのはよく出来た練習方法で、弦をはさむことによってiを曲げるタイミングとmを伸ばすタイミングをいやでもシンクロさせざるを得ないようになっています。はさむのは単に負荷をかけるためだけではないのではないか、と思うのです。 「はさみうち」の話が長くなってしまいましたが、実際、シュテパン・ラックの指導するプラハのコンセルバトワールでは、この爪の甲側を使った通常とは逆方向の弾弦法がカリキュラムに取り入れられています。[12]「はさみうち」による腱鞘炎のリスクを考えた場合、このような練習方法のほうが指に優しいのではないかと私は思います。

 練習方法

さて、具体的な練習方法ですが、要するに通常とは逆の動きで弾いてさえいればセゴビアのスケールでも何でも良いと思います。私は次の譜例のような練習を採用しています。これは、左右の指のシンクロのためにもとてもよい練習なので、レベルにもよりますが、まず、通常の弾弦法で練習してみた方が良いかもしれません。普通に弾けるようになったら、逆弾弦に切り替えます。やり方は、アポヤンドをちょうど逆向きにやるようなかっこうになります。譜例では、3弦を弾いていますから、弾弦後の指は2弦に寄りかかって止まります。最初はごくゆっくり、一つ一つの動きを確認しながら行います。恐ろしくぎごちない動きですが、地道にやってゆくと、そのうちに「なぜ昔はこれができなかったんだろう?」と思うくらい、自然な動きになります。普段めったに使わない、小さくて弱い、未発達の筋肉を使う運動ですから、やりすぎにはくれぐれも注意してください。(まあ、私の言うことを真に受けてこんな練習を採用する人は、めったにいないとは思いますが、念のため)痛みや、ごく小さな違和感でもあっても、異常を感じるようなら直ぐに中止してください。1日に各パターンを、1−2往復以上行う必要はないと思います。

問題の効果の方ですが、速効性があるとは思いませんが、私の場合は確実に効果があがっています。交互弾弦の際の指の動きが小さくなること、その結果間違った弦を弾くなどのミスが減少すること、動きそのものがギアに油をさしたようにスムースになって、力のぬけること、などが主なメリットです。もちろん、これは過去の自分の能力に比較してということですから、いきなり目もくらむようなスケールが弾けるようになる、などと思っていると大いに落胆することになると思います。レコーディングのところにアップしてある、ヴァイスのクーラントなどは、こういう練習なしにただ闇雲に練習していても、とても弾けるようにはならなかったと思っています。

 もう一つ、重要な伸展筋を使った運動には、親指を用いたものがあります。フラメンコのアルサプーアのような技術です。これについては、現在研究中ですが、むしろ、この章よりは、「無視された指たち」のところでご紹介する方が適当かもしれません。これについては、また後日。

 

   

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