メカニック研究

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             ギタリストのための解剖学

 ギタリストのための解剖学というと、ちょっと大げさですが、手と腕の構造とその機能を医学書を紐解いて調べるのは案外大変な作業ですので、ここにギターを弾くのに役に立ちそうな基本事項をまとめておきます。アウェアネスのところに書いたように、自分がギターを弾いている時にいったい手と腕のどの筋肉を使っているのかを知っておくことは、気づきにくい「力み」を見つけるためにも有益だと思います。

右手のひら側

右手の甲側

手を動かす筋は、手だけにあるのではありません。前腕にあって手を動かす筋を手外筋といって、おもに手首を曲げ伸ばしする筋と、指を動かす筋があります。手のひらの手内筋は、指を動かします。指の中には筋はありません。では、こういった筋の働きで、手の指はどのように動かされるのでしょうか。親指は他の四本の指に比べると、はるかに運動範囲の大きな指で、他の指とは大きく異なっています。ここでは、親指については詳しく解説しません。親指を除く四本の指には、前腕にある浅指屈筋、深指屈筋、総指伸筋、小指伸筋、示指伸筋という筋から、腱が伸びてきます。浅指屈筋、深指屈は手掌側にあって指を曲げ、総指伸筋は手背側にあって、指を伸ばす働きがあります。さらに小指と人差し指にはそれぞれに独立した指伸筋、小指伸筋と示指伸筋がつながっており、それぞれを個別に伸ばすことが出来ます。影絵で「きつね」を作る時、この二本の指を立てて耳にするのはこの事実を利用しているのです。

右手のひら側

これらの手外筋は、指の大まかな曲げ伸ばしを行います。指のもっと細かな動きには、手内筋がかかわっています。まず各指の中手骨の間には、骨間筋という七つの筋がおさまっています。骨間筋は、各指の中手骨の間で、手掌側に三つと手背側に四つの二層に並んでいて、指を付け根で曲げたり、外側や内側に振る働きをします。また、深指屈筋の腱から伸びて、指伸筋の腱膜におわる虫様筋という奇妙な筋があります。この筋は、形が弱々しく、筋紡錘を多く含んでいます。筋紡錘は、骨格筋の動きの速さや大きさを監視する筋中の感覚器(センサー)です。細い筋線維に神経がスプリング状に巻き付き、それを膜が覆い保護しています。その形が紡錘形をしていることから、筋紡錘という名前が付いています。このことから、虫様筋には深指屈筋や指伸筋の緊張を測定する役割があるのではないかといわれています。

右の図に示したように、指は指伸筋群が収縮することで伸び、屈筋群が収縮することで曲がります。私たちが指でギターの弦を弾く時には、MP、PIP、DIPの各関節が自然な角度をとっていることが重要です。自然な角度とは、完全に力を抜いたときに伸筋と屈筋がバランスするところです。この角度は、普通手首を伸ばした状態では、卵を軽く握ったようなところに落ち着くはずです。弾弦は主にMP関節からの運動で行われるべきです。なぜなら、この関節の運動は主に大きな手外筋の働きで行われるため、ひ弱な手内筋への負担を軽減することが出来るからです。この際、PIP、DIP関節はやはり、常に自然な角度を保っているべきです。速いスケールを弾こうと力んだときには、つい指が伸びきってしまいがちです。しかし、このようにPIP、DIP関節を伸ばしたままでMP関節を曲げるには、伸筋と屈筋を同時に働かす必要があります。つまり、一つの指を同時に逆方向から引っ張り合うことになるわけで、これは大変効率の悪い動きなのです。同様な理由で、指先だけの動きで行う弾弦も、避けたほうが良いと考えられます。MP関節を固定したままで、PIP、DIP関節を動かすためには、やはり、伸筋と屈筋を同時に働かす必要があるからです。

前腕の大きな筋は手首の運動にも作用を及ぼすので、指だけを動かすときには手根伸筋、手根屈筋によって手首を固定します。また、手を握ってから手くびを掌側に強く曲げると拳に力が入らなくなりますが、これは伸筋の過伸展による抵抗と屈筋にそれ以上収縮する余力のないためです。このように手首の関節の状態は指の運動にも大きな影響を及ぼします。最近では、一昔前に比べて手首を伸ばしたフォームで弾くギタリストが増えてきましたが、これは全く理にかなったことだと思います。

 

指の運動に関わる主な筋、対応する神経とその機能まとめ(親指を除く)

筋名(日本語)

筋名(学名)

対応する神経  
(太字は主たる神経)

主な働き

浅指屈筋

flexor digitorum superficialis

正中神経(頸神経7、8、 胸神経1)

副: 示、中、薬、小指のPIP関節を曲げる

主: 示、中、薬、小指のMP関節を曲げる

深指屈筋

flexor digitorum profundus

正中神経:示指、中指(頸神経8、 胸神経1)

尺骨神経:薬指、小指(頸神経8、 胸神経1)

示、中、薬、小指のDIP関節を曲げる

 

総指伸筋

extensor digitorum

橈骨神経(頸神経、8)

示、中、薬、小指のMP関節を伸ばす

手首を伸ばす

小指伸筋

extensor digiti minimi

小指のMP、PIP関節を伸ばす

示指伸筋

extensor indicis

橈骨神経(頸神経7、

示指を伸ばす

虫様筋

lumbricals

正中神経(頸神経8、 胸神経1

尺骨神経(頸神経8、 胸神経1

示、中、薬、小指のMP関節を曲げ、PIP関節を伸ばす

背側骨間筋

dorsal interossei

尺骨神経(頸神経8、 胸神経1

指を軸線から外転し、虫様筋とともにMP関節を曲げ、PIP関節を伸ばす

掌側骨間筋

palmar interossei

指を軸線へ向け内転し、虫様筋のMP関節を曲げ、PIP関節を伸ばす作用を補助する

  

 

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