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楽器紹介・目次
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2003年7月から私のメイン楽器となった、サウスウェル・ハウザーです。これは、イギリス・ノッティンガムの製作家、ギャリー・サウスウェルによる、ジュリアン・ブリーム(ローズ・オーガスチン)所有の1940年作、ヘルマン・ハウザー1世の完全レプリカといってもよい楽器です。この楽器については、色々とお話したいことがあるのですが、なかなか一度には書ききれませんので、とりあえず今回は、写真でその姿をご紹介します。
こちらは、ハウザー(1946)の設計図です。
幼少の頃からギタ−の演奏に情熱を燃やし、それに加えて家具師であった父の影響で木工にも親しんだギャリー・サウスウェルは、ロンドン家具カッレッジ(現在はギルドホール・カレッジの一部となっています) にギター製作を学びました。彼が自分のワークショップを立ち上げたのは1983年のことでした。 彼は製作家として仕事を始めた当初、19世紀前半に製作されたギターの復原と修復に没頭し、現在では、今まであまり関心を集めてこなかったこの分野での第一人者として広く認められており、当時の主要な製作家とその作品の研究を精力的に行っています。彼は世界中の博物館や個人のコレクションに収集されている古楽器の図面とそれに付随する詳細な文献を数多く所有しています。また、著述活動、講演、コンサルティング、あるいは19世紀ギターの修復・復原などの活動を行っています。復原にあったっては、ごく些細な点までが詳細に再現され、オリジナルと同種の木材や塗料を使用することに最大限の努力がはらわれます。このことは、後の時代の楽器、トレスやハウザーのコピーの製作にあったっても同様です。 彼は、このような独特の視点から、モダンコンサートギタ−の設計・製作をも行い、彼の製作したギターに対して、より広く、人々の注目を喚起することとなりました。このギター(Aシリーズギター)は、世界中のトップギタリストに使用されています。 音質、演奏の容易さ、美的要素の向上のために新しいアイデアによるギターを考案・試作することが、今のサウスウェルにとって重要な仕事です。彼は、演奏家からの特注や企画などを好んで受けて製作します。近年、彼はジュリアン・ブリームとともにハウザーギターの研究と製作に携わりました。デイヴィッド・スタロビンとは、Aシリーズギターの製作を、ジョン・ウィリアムスとは、ピックアップ付ギターシステムの開発を行いました。数多くの19世紀ギターを収集し、ナイジェル・ノース、マリア・カマリング、晩年のリーフ・クリステンセンなどの協力を得て、多くの楽器を修復・復原しました。彼は、このような共同研究がすばらしいアイデアの交換をもたらし、それが彼の楽器製作の基礎となっていると考えています。 Classical
Guitar, 2002, March
さて、工房訪問記(その2)では、ギャリー・サウスウェルへの「一問一答」という形式で、色々と興味深いお話を紹介したいと思います。録音したものを書き起こしたわけではありませんので、なんとなくこんな感じの会話を交わした、ということです。ギャリーの発言内容は、あくまで「蚊帳吊りウサギはこう受け取った」ということに過ぎませんので、すべての誤り等は、私に起因するものとご理解ください。 蚊帳吊りウサギ(K):このハウザーモデルには、どんな弦を張ったらいいですか? ギャリー(G):テンションの高い弦は、向かないと思います。プロアルテのノーマル、それも低音弦を研磨したものが、ノイズも少なくてよいと思います。テンションの高い弦は、音量が豊かになる傾向はありますが、その反面、音からギターらしい温かみが失われてしまいます。暖かい、ふくよかな音、というのが私の基本的に求めている音です。 (K):ダダリオのノーマルなら、私がいつも使っている弦ですね。私も張りの弱い弦が好みです。その方が、ニュアンスに富んだ音を作れるように思います。フルオロカーボンやコンポジットの弦についてはどう思いますか。 (G):音が金属的になりすぎるように思います。弦については私も色々研究していて、昔のガット弦の音を再現できる材料を探していますが、難しいですね。現代の弦は、均質すぎるのかもしれません。ガットは非常に不均質な材質で、部分々で密度が大きく違ったりしますが、それがかえって色彩の豊かな音を作り出していたのです。現代のギター弦のもう一つの問題は、3弦の張りがその他の弦に比べて弱くなっていることです。6本の弦すべてが均等な張力を持つ弦の開発を、色々な弦メーカーに打診してみたことがありますが、あまり色よい返事はもらえませんでした。あなたは、ナイルガットについてはどう思いますか? (K):明るい、音量の出る弦だと思いましたが、弾いた時の右手の感触が好きになれませんでした。硬すぎるように思うのです。それに、音の艶は、ナイロンに比べてもう一つだと感じましたね。 (G):そうですか。あれは、ポリエステルが主成分らしいですね。 (K):今でも、ジュリアン・ブリームとは、ハウザーの研究をしているのですか。 (G):研究というか、たくさん注文を抱えています。ハウザーをあと5本作ってくれと言うのです。 (K):それは、すべてローズ・オーガスチンの楽器のコピーですか? それとも、また別のハウザーでしょうか? (G):同じハウザーです。ブリームは、一番いいものを一本だけとって、残りはイギリスの音大に寄付すると言っています。ところで、あなたも、ずっと1940年前後のハウザーのような音を理想としていたのですか。 (K):もう25年以上前になりますが、日本のあるギター専門店で弾かせてもらった、1940年のハウザー1世の音が忘れられないのですよ。私の先生のジェラルド・ガルシアは、スモールマンを使っていますが、あまり好きな楽器ではありません。スモールマンについてはどう思いますか? (G):グレッグ・スモールマンの楽器なら、ジョン・ウィリアムスの持っている楽器を何本か見ました。ジョンが使っているくらいですから、スモールマンの中でも特別に良いものなのでしょうけれども、私の求めている音ではないと思いました。スモールマンは音量を求めたギターだといわれます。それに対して、このハウザーモデルは、手元でそんなに大きな音がするわけではありませんが、ホールではとてもよく聞こえます。美しい音には聞き手も自然に耳をそばだてるものだと思いますね。 (K):近くでは小さい音だけれど、遠くでも良く聞こえる「遠達性」のある音、というものが存在すると思いますか? (G):そういう性質の音があるとしても、実際に測定するのがとても難しいでしょう。音の大小の判断というのは、とても主観的なものです。 (K):楽器の音というのは音楽的なコンテクストの中に現れてくるものだから、一つの音を取り出して、それが大きいか小さいか、柔らかいか硬いか、を議論することには、あまり意味がないように思います。 (G):まったく、そのとおりですね。 (K):楽器商と取引をすることも多いのですか? (G):基本的にディーラーに楽器を売るのは好きではありません。やはり、演奏家に直接買ってもらいたいですね。楽器を引き渡した後も、自分の楽器の音がどのように変化してゆくのか、ということにとても興味がありますから。演奏家からのフィードバックはとても大切です。最近では、海外からたくさんメールで注文がきます。アメリカからのものが一番多いですね。 (K):多弦ギターも作りますか? (G):特に決まったモデルはありませんが、注文があれば何でも作ります。色々と新しいことを実験するのが好きなんです。 (K):年間の製作本数はどれくらいでしょう。 (G):10本強、といったところですね。最近、弟子を一人とりましたが、材料の切り分けなど、ごく一部の仕事を除いては、手伝ってもらうことはありません。彼は、同じギターでもスチール弦のギターの製作に興味を持っているのです。上手く住み分けているわけですね。それでも、仕事の合間に話し相手のいるのはいいですね。 (K):ノティンガムの気候は、ギター作りにはどうなのですか? 材料の保存などに気を使うことはありますか? (G):ここは、特別に暑くも寒くもなく、湿度も適当で、まったく問題ありません。 とまあ、こういう話が続いたわけですが、そろそろ楽器そのものについてお話したいと思います。 楽器の印象 全体に地味な印象です。ボディが薄い(中央部で94ミリ)せいか、実際よりも持ってみると小さく感じます。作りはとても丁寧で、まったく問題ありません。表板はクリーム色のヨーロピアンスプルースで、木目もまっすぐで細かく、私には良い材料のように見えます。弦幅がネックで44ミリ、弦長は650ミリ。弦長は同じでも、私の今までの楽器、コントレーラスの弦幅46ミリから多少狭くなっただけで、ずいぶん押さえやすく、また低音の音程が良くなりました。無理をしてストレッチをすると、弦を引っ張って押さえてしまうので音痴になりやすいのですね。ネックの仕込み角が浅いせいか、弦の張りは弱く感じます。弦高を12フレットで、1弦3.2ミリ、6弦4.5ミリに調節してありますが、とても押さえやすいと思います。 今までの楽器と比べて一番印象的だったのは、低音の鳴りです。とても深い、ただドーンとなるのではない、高次のハーモニクスを伴った色彩感のある低音がでてきます。現代の曲では、時々音のスペーシングの悪い、鳴りにくい和音がでてきて、ちゃんと弾いているのに、押さえ間違ったように響くようなことがありますが、この楽器で弾くとちゃんとした和音に聞こえる、ということがアセンシオの「内なる想い」を弾いていて何度かありました。低音の鳴りのよさは、弾いている最中に裏板を通して肋骨が共鳴して震えることからも分かります。こういう体験は初めてです。 それに対して、中高音の音の艶という点では、20数年前に弾いたオリジナルの1940年ハウザーには、一歩譲るというのが正直なところでしょう。しかし、まだ、ニスの匂いのする若い楽器に、そこまでを要求するのは酷と言うもの。中高音の印象は、一口でいえば、細いけれども、みずみずしく、くっきりしているということです。とても粒立ちの良い音だと思います。弾いたときの右手の感じと、それに伴って出て来る音の間に時差がなく、立ち上がりが良いので快適です。ギャリーによれば、トップはとても薄く軽く出来ているのだそうです。ここが、ブリームと一緒に最も苦労してチューニングした点だそうです。 楽器紹介をアップしてから、日本のある愛好家の方からメールをいただきました。彼は、私と同じハウザーモデルを所有していらっしゃるそうです。彼によれば、 「非常にていねいな仕上げで、音はマッタリとでも言うような人の声のイメージがある音で、気に入っていますが、ただ、私の楽器は表板が薄く強度が無いせいか、6弦 Fの音がウルフトーンになっています。したがって、近い6弦開放弦のEも少なからずボンつく傾向にあります。蚊帳吊りウサギさんの楽器はそんな傾向はありませんか?」 ということでした。そこでウルフノート(トーン)を探してみました。まず、ギターをきっちりチューニングして、机の上へ表板を上に向けて置き、6弦開放を12フレットあたりに指をかけて水平方向にはじいてみます。弦の振動を観察すると、12フレットに腹のあるきれいな定常波が見えます。次に、1フレットを押さえて、13フレットをはじきます。やはり、きれいな定常波が見えます。これをハイポジションまで繰り返しますが、すべてきれいな定常波になります。要するに、表板に並行方向の振動は、ボディとは共振しないのですね。(まわりくどくて、ごめんなさい) 次に、ギターを机に対して縦に置いて(サイドを下にして)同じことをやってゆきます。ただし、弦をはじく時は表板に対して縦方向に押し込みます。表板に対して縦成分の振動を与えるわけです。そうすると、観察される弦の振動は先ほどとは全然違います。6弦開放では、定常波が成立しそうになったとたんに、それは複雑なパターンに崩れてゆきます。1フレットを押さえたとき、弦はもっとも複雑な運動をし、2、3フレットと上がってゆくに従い、その崩れ方は弱くなります。そして、4フレットより上では、完全に定常波の様子を呈します。さて、結論ですが、もちろん6弦1フレットの音(F)がウルフトーン、その前後、E、F♯、それから、Gもやや不整振動気味、ということですね。メールをいただいた方の楽器のチューニングとまったく同じです。これは偶然ではないでしょう。ウルフがFにあるおかげで、通常やや寸詰まり気味の(私のコントレーラスのウルフはG♯にありました)、6弦中ほどの音、A、Bあたりがとてもよく伸びるように思います。Eがやや詰まり気味という指摘は、当たっていると思いますが、実際の演奏ではほとんど気にならないレベルのように思います。この辺の様子は、弾き込みや、弦の選択によっても変わってくるかもしれません。注意して観察を続けたいと思います。
昨年7月にノッティンガムのギャリーの工房へ、このギターを受け取りに行ったときは、用意していたスローンの糸巻きがハウザーの小さなヘッドに納まらなくて、糸巻きの一部をグラインダーで削って短くして、無理やり納めたことは「工房訪問記・その1」でお話しました。今回はそのスローンを新しい糸巻きに取り替えるお話です。 糸巻きのこと
蚊帳吊りウサギ(K):このハウザーモデルには、ロジャースは似合わないと言ってましたね。 ギャリー(G):そうなんですよ。ロジャースはとても良い糸巻きですが、彫金の装飾が多くてこういうシンプルなデザインの楽器には、ふさわしくないと思います。このランズトルファー・レイシェルはとてもあっさりしたデザインで、ハウザーによく似合うと思います。オリジナルの1940年のハウザー1世の楽器にもこれとほとんど同じランズトルファーが使われています。 (K):そうですね、いかにもドイツ製、という感じの糸巻きですね。 (G):はい。みんなロジャースをほしがりますから、大変です。最近は息子さんが手伝うようになったようですが、基本的にはひとつずつ本人が手作りしますので、とても世界中の需要をまかないきれません。今、注文しても1−2年は待たないといけないでしょう。私は、幸い、長い付き合いなので毎年10個ほどの割り当て分を持っています。 ハウザーモデルのこと (K):この楽器(私の楽器)は、F、F♯あたりにウルフがあるようですが、これは意図的に設定したものですか? (G):そうです。オリジナルと同じです。 (K):やはり、あなたのハウザーモデルを使っている人からメールをもらったことがあるのですが、その人は、「このウルフのせいか、6弦開放のEの伸びがやや悪くて、詰まった感じの音がする(ボン鳴り)」と書いていました。 (G):うーん、ウルフというのは、どうしてもEからG♯あたりにでてくるものなので、別の高さに移したからといって問題がなくなるわけではありません。ウルフがどこにあるかということよりも、実際にこの楽器を演奏する時に、自分の求める音が出るかどうかを考えてほしいと思います。楽器を分析するより、音楽をしてほしいということです。どんな楽器にも長所と短所があるわけですから、この楽器の弱点がどうしても気になるなら、ほかの楽器に取り替えるしかないでしょう。 (K):なるほど。確かに弦の動きを目で観察したりすると、ウルフの位置はわかりますが、実際に曲を弾いていると、低音の鳴りの深さがこの楽器の特徴のひとつだと思えますから、不思議なものですね。 (G):オリジナルには、ローズが使われています。確かにハカランダは、きれいな材で美しい楽器ができますが、この楽器には少し密度が高すぎると思います。ハカランダを使うと、強い芯のある音が出るようになりますが、その分、甘い感じが失われます。楽器全体が共鳴するような鳴り方をさせるには、ローズの方が良いようです。ハウザー1世の楽器には、ローズの使われている例が多いのです。ブリームの楽器もすべてローズで製作します。 (K):最近のハウザー3世の楽器についてはどう思いますか? (G):1世の楽器とはぜんぜん違う楽器です。彼のギターは重いですね。1世、2世に比べると、すべてのパーツが重くなっています。ハウザーという名前がついているから、同じような楽器だと思う人も多いでしょうが、まったく別の楽器だと考えるべきだと思います。ハウザー2世ですら初代からは、ほとんどギターの製作について何も習わなかった、といっている人もいるくらいです。この話は、まあ、ちょっと疑わしいですが。 (K):以前にお話のあった、ブリームが注文した5本のハウザーモデルですが、そちらのほうの製作は進んでいますか? (G):ええ、少しずつ普通の仕事の合間を見て作っています。全部同じに作るわけではなくて、ジュリアンと相談しながら、ここを少し薄く、ここは厚くと、いろいろ実験しています。 (K):先日、ジェラルド・ガルシアに私の楽器を見てもらったら、気に入ったみたいでしたよ。「良い音を造りやすいギターだ。一度、コンサートホールでどんな音がするのか聴いてみたい」と、いっていました。 (G):それは、うれしいですね。 Aシリーズのカットアウェイモデル
(K):あなたのAシリーズのカットアウェイモデルはとてもモダンな美しいデザインですが、あの楽器の注文も多いのですか? (G):はい、多いですよ。最近、スコット・テナントのために一本作りました。とても、気に入ってもらって、それを弾いたジョン・ディアマンがカルテットで弾くときのために、同じAシリーズの7弦を注文してきたくらいす。ああ、今、車の中に一本持っていますから、弾いてみますか? ということで、弾かせていただきました。写真をご覧ください。ネックは、普通のクラシックに比べるとやや細めです。これは、デイヴィッド・タンネンバウムとディスカッションを重ねて出来上がったデザインだそうです。ギャリーの言葉を借りれば、「トレスに端を発するスペインギターとはまったく異なった、シュタウファーなどの19世紀ウィーン派のギター製作の伝統を、現代的な解釈で蘇らせた」ギターということになります。
(K):このAシリーズですが、630くらいのショートスケールで、8弦くらいの多弦という楽器も出来ますか?それから、裏と横をメープルに、、、 (G):630は、以前に作ったことがあります。弦を追加するのも難しいことではないですよ。メープルのモデルもあります。ローズほど強い音は出ませんが。 (K):いや、音量は大した問題じゃないんです。私は、最近リュートの曲をギターに編曲して弾くことが多いのですが、やはり時々低音弦が足らないことがあるのです。それから、音の傾向としては、ふつうのギターより余分な共鳴の多い、サステインはそんなに長くなくてもよいですから、リュート的な音がほしいんです。 (G):うーん、そういう目的なら、Aシリーズのメープルというのは、理想的な選択ですね。今の、ウェイティングリストは2年くらいですよ。 蚊帳吊りウサギ、この「ヴァイスギター」、思わずその場で一本注文しそうになりましたが、踏みとどまりました。ウィティングリストは2年ですが、ギャリーは、日本のファナと、イギリスのスタッフォードが一年に一本のスロットを持っているので、少し(ファナの場合はかなり)高くなりますが、こちらを通せば、比較的早く製作してもらうことが出来ます。最近のファナからの注文は、トレスのレプリカが多いようです。この後、Dチューニングの時に若干ビビリの出るフレットがある件について相談しましたが、こちらのほうは、工房できっちり調整したほうがよいようなので、近いうちに、またノッティンガムまで出かけることになりそうです。
なにを隠そう、私は大のリュート好きです。バロック・リュートというのは天使の楽器だと本気で思っています。それなのに、さっさとギターをやめてリュートに転向しないのには、色々な理由があるのですが、枝葉を省略して大雑把に言えば、それはギターのことも同じように好きだからでしょう。そういう私が、ヴァイスのリュート曲を弾くにあたって、多弦ギターを選択することはごく自然な成り行きといえます。ここでご紹介する、マリオ・グロップ作の8弦ギターは、2005年5月に注文をして5ヵ月後に完成。前庭の桜の紅葉も半ば散り落ちた10月のある日、我が家へ届けられました。 グロップさんにこのギターを注文するに至った経緯や、なぜ7弦でも10弦でも11弦でもなく8弦なのかとか、色々と話題はあるのですが、まだちゃんと弾きこなせるかどうかもわからない楽器について、あれこれと講釈をたれるのは、どうも気が引けますので、今回は写真で楽器の姿だけをご披露するにとどめておきます。また、追々、駄文を追加することになるでしょう。弦長は650ミリ。表板はスプルース。横・裏板はメープル。調弦は、今のところ、上からaebgdaeaです。この調弦は、もちろん、私の発明でもなんでもありません。同じ調弦のギターを弾くギタリストには、たとえば、加藤繁雄さんやアレキサンダー・ヴィノグラッドなどがいます。 付録: 弦の張力測定 釣り糸を1弦に使用するにあたって、適当な張りのゲージを選ぶため、また楽器を壊さないためにも、実際に楽器に弦を張ってみる前に、そのテンションを推定しておくことは重要です。弦のテンションは、その長さ、音程、材質(密度)、直径が与えられれば、かなりの精度で推定することが出来ます。しかし、様々な要素から、計算値と実際に楽器に張ったときの弦のテンションのあいだには若干の誤差が生じます。また、未知の材質、たとえば複合材料などを用いた弦の密度データは、入手困難です。ここに、弦の張力測定器の必要性があります。 張力測定器といっても、ありあわせの材料で、ごく簡単に自作することが出来ます。私が使っているのは、本棚に木切れとねじを取り付けただけのきわめていいかげんなものですが、実用的にはこれで十分です。写真をご覧いただけば、説明はほとんど不要でしょう。本棚の枠に木切れに彫刻刀で弦のガイドとなる筋目を入れたものを、650mmの間隔で貼り付てあります。その上下にねじ釘式の金属製のフックがあり、ここに弦を結ぶわけです。弦の一方の端は、簡単なテンショナーとぶら下げ式のばね秤に結び付けておきます。弦をセットアップしたら、テンショナーを回して、本棚の枠につけたチューナーで目的の音程にチューニングします。どうです、簡単でしょう? 材料さえそろえれば、わずか5分で完成です。 もう10年以上も前のこと、1990年ころだったと思います、突然、フラメンコを弾きたいという衝動に駆られて、発作的にロンドンのギター店へ出かけてフラメンコギターを買ってきたことがあります。テープつきの教本もあわせて買ってきて、3ヶ月くらいは、フラメンコばかり弾いていました。教本は、半分くらいやりました。簡単なブレリアがたどたどしく弾けるようになったところで、憑き物の落ちたように、また、弾かなくなってしまいました。私は、けっこう、何事にも計画的なほうだと思うのですが、よく考えてみると、始めるきっかけは衝動的なことが多いようです。軽率に始めてしまったことのつじつまをあわすために、後になってから、善後策を周到に計画するというか、そういうところがあるようです。ここで紹介するのは、その時に購入した、ビセンテ・サンチス作のギターです。450ポンドでしたから、当時の為替レートで10万円くらいだと思います。ヘッドは、マシンではなくて、ペグです。ガラス球の飾りが入っているのが、なんとも安っぽくて、ご愛嬌です。
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